大判例

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東京地方裁判所 昭和37年(ワ)14号・昭37年(ワ)37号 判決

以下は、判例タイムズに掲載された記事をそのまま収録しています。オリジナルの判決文ではありません。

〔事実と判断〕原告らはいずれも被告振出の約束手形の所持人として手形金の支払いを求めた。被告は各手形振出の事実を認めたが、原告らの本訴各手形金の請求は権利の乱用であつて許さるべきでないとしてつぎのとおり抗弁した。すなわち原告らは昭和三四年二月本件各約束手形を訴外橋谷文八にたいし、かくれた取立委任のための裏書譲渡をし、同人は手形の所持人として本件被告を被告として東京地方裁判所昭和三四年(ワ)第一〇三四号約束手形金請求訴訟事件を提起し、第一審において勝訴判決を得たが控訴され、東京高等裁判所において、橋谷に対する前記各手形の裏書譲渡は手形金取立ての訴訟をなさしめることを主たる目的とするものであつて、信託法第一一条の法意に違反して無効であるとの理由で、原判決は取り消され、上告棄却の判決がなされて確定した。このように原告らは訴訟信託をしたことにより、裁判所に対しては二年有半に亘つて無益な努力を費やさせ、被告に対して代理人の手数料等莫大な財産的損失と精神的負担をこうむらせ、また他方被告がすでに受けた前記確定判決によつて保た既判力、確定した権利関係によつてもたらされた法的安定への期待や利益等は、原告らの本訴提起によつて浮動の状態に還元され、且つ侵害された。原告らは自ら法の禁止する違法行為をなし、その目的が達せられないからといつて、本訴においてみるように、同種の訴訟を際限なく提起することは、正義衝平の理念および信義誠実の原則に背馳し、権利の社会性にも違反するから権利の乱用にあたり、許さるべきでないと抗争した。

判決は被告主張の訴訟信託による前訴の存在する事実(当事者間に争いのない事実)は真実の権利者の権利の行使が乱用となるか否かと無関係であるとして被告の抗弁を排斥したが、つぎのとおり説明している。曰く。

「本訴手形金請求は、右訴訟信託をかつてなした原告池原ならびに福井安太郎の相続承継人である原告福井アイによつてなされているものではあるが、だからといつて本訴請求が権利の社会性に反し、権利の行使として是認できないものであると断ずるわけにはいかない。被告が、さきに提起されすでにその確定をみた前記手形金請求事件についやした経済的時間的負担の多寡や、当該事件の勝訴判決の確定によつて得たであろう法律的精神的安定の度合を充分に参酌しても、また、訴訟信託という違法行為が招来するに至る弊害を考慮に入れたとしても、訴訟信託前の真正な権利者の権利行使がそれゆえに制限されるものであると考えることはできない。権利者が義務者との関係で当該権利行使とは別個な違法行為をなし、その行為が義務者および関係人に与えた影響を被告主張のように無視できない場合、そのことによつて、権利者の当該権利の行使が全く許容され得なくなるものとすれば、それは権利者に対する一種の制裁ともいうべきであつて、有効な明文上に根拠を必要とするものであり、権利濫用の法理とは明らかに無関係なものであるというべきである。従つて、この点についての被告の主張も理由がなく採用することはできない。」

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